時代の荒波の中で封印した伝統技法『濃み』

5人きょうだいの末っ子ですけども、私が受け継ぎました。名前が『久洋』ということで、そのまま『副久』を変えることなくできたのは、不思議な偶然です。5人いて同一の文字が入っていたのは私だけなのですよ。芸大卒業後に副久製陶所で絵付の仕事をしましたが、先代である父が手取り足取り教えてくれるはずもなく、まさに見て覚えることで日々を積み重ねてきました。一年ほど絵付けの研修をしたものの、それでも毎日が覚えるのに大変でした。働き始めた頃は、日本がバブル経済に向かっていく時期でしたので作れば売れたのですが、バブルが崩壊したあとは次第に需要が落ち、製陶所をたたむ人たちも多くいました。
特に中国製品が流通し始めてからはさらに厳しくなり、私たちも時間とコストがかかる濃み技法の製品作りは殆どしなくなり、大量生産に向いている普通の製品を制作するようになりました。しかしですね、正直に申しますと楽しくはありませんでした。それでも食べていくためには必死にやっていくしかなかったのです。

小さな工房から世界へ。意識の切り替えが今の原動力

もう製陶所は辞めようかと思い始めていたころのタイミングで、有田焼創業400年事業があり、私たちもそれに参加をすることになりました。簡単に言えばブランディングとマーケティングを改めて再構築していく企画です。これによって誕生したのが、長い間埋れていた濃み技法を用いた『GOSU』です。2014年から始めて2016年に製品化、年を追うごとに明確に副久製陶所のブランドとして広く認知されるようになりました。関東圏からのお問い合わせや購入が多く、時には海外から求められます。今ではこうやって県外、国外からSNSなどを経由したお問合せをもらうようなりましたが、そうなったのも妻の努力のおかげです。数年前まではパソコンすら触ることがなかったのですが、有田焼創業400年事業をきっかけにさまざまなことで活用するようになりました。
最近では動画の編集なんかもやっていますよ。数年前とは違い、見識を拡げるためにいろんなことを積極的に体験するようになりました。それが作品作りに反映されていますね。これからは世界にもっと展開していきたいと思っています。GOSUを通じて人と関わる楽しさ、物を作る楽しさを再発見し、今はとても充実しています。そして改めて思うのが、夫婦で苦楽を共にし、何かを成していくことが何よりもかけがえのない物だということですかね。

可能性を秘める副久製陶所

今、次男が工房の手伝いをしています。まだ若いので覚えることはたくさんありますが、真面目にしてくれていますね。しかしウチを継ぐかどうかはまだわかりません。昔は親族が後継者の条件ということが大部分でしたが、現代は考え方も変わり、子どもの考えを尊重するようになりました。次男は絵付けに真剣に取り組んでくれていることは確かです。今頑張ってくれている背中を見守ろうと思います。県民の皆さんにもどうか一緒に応援していただけると嬉しいです。そして副久製陶所を推薦してくださりありがとうございます。

住所:嬉野市嬉野町大字吉田丁4099-1
電話:0954-43-9606
営業時間:9:00〜17:00
休み:日曜日・祝日
駐車場:5台