野鍛冶から始まった男の浪漫。世界から注目される水本焼き。

現在、父と息子である私の2人で製作をしています。唐津市呼子町加部島は父の故郷です。父は、15歳のときに地元呼子町の野鍛冶の師匠に弟子入りしました。5年ほど経って、刃物の本場で腕を磨きたいと、大阪・堺の小林刃物に本焼きの技術の修業に行きました。
小林刃物は母の実家で、そこで父と母が出会い結婚したそうです。なので、私は堺で生まれ育ちました。平成4年のこと、父が故郷である加部島に帰りたいと言って、母も「男の浪漫だからいいよ。」となったので、家族みんなで移住をすることになりました。
呼子大橋がかかり、島に陸路で渡れるようになったことも大きかったです。それから30年、加部島で鍛冶屋をやっています。包丁作りは、分業制で行っており、鍛冶、研ぎ、柄付けの工程です。向刃物製作所では鍛冶を担っており、製作した生地の9割9分は堺の問屋さんに出しています。
現在ではSNS等の影響で、知っていただく機会が増え、全国から、また海外からも料理人さんが訪ねて来られます。

試行錯誤の末にたどり着いた水本焼き。その銘を「玄海正国」

父は堺での修行時代、仕事の合間に研究し、試行錯誤を繰り返して、本焼きの技術を修得しました。焼き入れの工程では、包丁を最後に炉の中に入れて熱し、取り出した際に一気に冷やします。ほとんどの包丁が油を使用して冷却するので、父も当初は油焼きをしていました。
しかし、途中で割れてしまうなど扱いづらく加減が難しいですが、水を使用する方が鋭い切れ味になるので、研究を重ねることで、世界でもその技術を持った職人は少ない、水を使用して冷却する水本焼きを完成させました。
その銘を「玄海正国」といいます。父の故郷の玄海灘と野鍛冶の親方のお名前である正国をいただいて、名付けたそうです。
有難いことに、島の小さな工房にこの水本焼きを求め、料理人の方が訪れてくださいますが、現状としましては、手仕事のため大量に作ることができず、また、分業制にしているので研ぎと柄付けの部分ができないので、直接販売しているのは、ごくごく僅かな量です。

鍛冶・研ぎ・柄付けの三位一体。本物の技術を持った職人が少なくなっているのが課題

水本焼きの技術を後世に残したいと思っていただけて、嬉しいです。包丁作りは分業制と申しましたが、玄海正国の研ぎをしてくださっていた堺源伯鳳氏が3年前に亡くなられました。とても残念ですが、このような技術を持った職人の数が年々減ってきています。
なので、こちらで生地を製作しても、その先の工程をできる方がおらず販売できる商品にならないこともあるのです。現在、父が81歳で、私が55歳です。過去に、無給でいいから弟子になりたいと申し出てくれた方もいましたが、今後のこの業界のことを考えると、親御さんも心配されるでしょうから、御断りしました。
私には18歳の娘がいますが、海外で活躍したいという夢があるようなので、水本焼きのことを海外でももっと広めて、日本の技術の素晴らしさを伝えてくれたら嬉しいなぁと思っています。

住所:佐賀県唐津市呼子町加部島297-1
電話:0955-82-4459
営業時間:9:00~ ※作業状況で変動
休み:日曜祝日
駐車場:普通車1台