「お母さんの味にはまだ遠い」という厳しい言葉に鍛えられました

うちの前身は、もてなし好きの母が自宅の隅に作った回転焼きとかき氷の店。1970(昭和45)年、その店を拡大してオープンしたのが「ふくみ食堂」です。母が腕を振るうちゃんぽんは評判で、町内に勤める方や近くの学校の先生などがよく食べに見えていましたね。
私は高校を出て広島で8年間料理の修行をしたあと、25歳の時に戻って来て、母と厨房に立つようになりました。腕には自信があって新メニューを考案したりと懸命に取り組んだのですが、初めのうちは、ちゃんぽんだけは母にかないませんでした。同じ素材で同じように作っても、昔からのお客さんに「何か違う。まだまだお母さんの味には及ばんね」と残念な顔をされて、悔しい思いをしたことを覚えています。なじみのお客さんたちに自分の味を認めてもらうのに10年はかかりました。
25年前の建て替えを機に「お食事処 ふくみ」と店名を一新し、昼は食事処、夜は宴会の店として家族で頑張っています。80歳になる母も元気に厨房に立っていますよ。今では、遠くからいらっしゃるお客さんがいっぱいで、週末になると昼時には行列もできるほど。ありがたい限りです。

豚骨と鶏ガラがベースの呼び戻しスープが「ふくみ」の命

定食や丼もの、ラーメンなども置いてはいますが、圧倒的に注文数が多いのはやっぱり創業時からの名物である「ちゃんぽん」です。スープのベースは、豚骨と鶏ガラ。週に4回、2日間かけて炊き出すダシを継ぎ足しながら使う「呼び戻し」の手法で、甘めに仕上がるように意識しながら作っています。醤油は唐津の「宮島醤油」のものです。
季節や天候によってどうしても仕上がりは変わってしまいますが、味の振れ幅を最小限に抑え、質にバラツキが出ないように心を砕いています。
具は、豚とキクラゲ、それからたっぷりの野菜です。「せっかく海に近い場所なのだから、海鮮を入れた方がいいよ」という声をもらうこともありますが、すでに完成しているウチのちゃんぽんの流儀を崩すつもりはありません。これからもずっと、この味で勝負するつもりです。

体が動かなくなってきても、できる範囲で続けていきたい

今のところ、後継者はいません。「店の味を継ぐ」ことの大変さは身をもって知っているので、ウチの味を誰かに教えたいとも思っていませんし。もし身内の誰かがやってみたいと真剣に申し出てくれるなら喜んで検討しますが、まぁ、先々はなるようになるかなと思っています。
ウチの味を求めて来てくださるお客さんのために、あと10年は今の形で続けられたらいいですね。しかし体力勝負の仕事ですし、私もそろそろ還暦ですから、いずれ体がついていかなくなる時がやってくると覚悟しています。ですが、規模を縮小するなりしてできる限りは続けて行くつもりです。味は落としたくないので、席数を減らしたり営業時間を短くしたり工夫して対応していければと考えているので、応援をよろしくお願いします。

住所:佐賀県東松浦郡玄海町普恩寺854-3
電話:0955-52-6508
営業時間:11:30〜14:00、17:00〜21:00
休み:月曜、年末年始
駐車場:あり