主婦からの転身。「お好み焼きのおばちゃん」と慕われる存在に

山田 和さん(80)

結婚後は仕事に家事、子育てに追われながらも、いつか自分で商売をやってみたいと考えていたんです。転機が訪れたのは、友人に誘われていった与賀町のお好み焼き屋。店主と何気ない世間話をしていたら「後継者を探しているんだよね」とこぼしたんです。子育てが一段落した頃だったので「私にやらせてください!」とその場で宣言。1987(昭和62)年に、貯金をはたいて店を譲り受けました。
それから1ヵ月はただ働きで修業。生地の作り方など一通り学びましたが、独立してからは大変で。最初のうちは「今日は粉っぽい」「この前となんか違うよ」とお叱りを受けることも多かったです。さらには、オープンから1年後にガンを患ってしまって、与賀町の店は閉店。退院後、1989(平成元)年に縁あって本庄町に移転してからは、学生たちでいつも賑やかでした。学生が煙草を吸ってたら「親のスネかじって煙草なんか吸って!」と、やかましく言ったことも。そんな子が数年後に「おばちゃん、おい、もう働きよるけんね」と誇らしそうに報告してきたり。学生たちの「お腹いっぱいになった!」と笑う顔を見るのが何よりの喜びでした。

一番ダシと特製ソースが相性抜群! オリジナルの関西風お好み焼き

山田 和さん(80)

うちのお好み焼きは関西風。独立後は、修業で習ったことを基本に、粉の配合やダシの取り方、生地の混ぜ方を研究しました。正直、今の味に辿りつくまでに10年位かかりましたね。やっぱり“粉もん”というだけに、粉の配合が一番奥が深い。ここは苦労しただけに、誰かに聞かれても簡単には教えません。
生地は、小麦粉に昆布や鰹節から取った一番ダシで味付け。味の決め手は、甘さと辛さのバランスを考えてつくった門外不出の特製ソースです。だしの旨みと相まって、大盛りでもペロッと完食できます。
イカ、エビ、豚肉の素材の味が凝縮した、ミックスが一番人気です。お客さんたちが言ってくれるのは「おばちゃんのお好み焼きは豚肉がうまい!」ということ。うちは、厚みのある九州産もち豚を使っているので、脂身の甘みを感じられるし、食べ応えがあるんです。

たかがお好み焼き、されど私にとっては生きがい

山田 和さん(80)

ここまで店を続けてこられたのは、自分にはこれしかないと思ってやってきたのと、やっぱりお客さんのおかげ。当時学生だった常連さんが、佐賀に帰省するたびに食べに来てくれたり、「おばちゃんの顔ば見に来たよ!」と会いに来てくれると嬉しい。名前は知らなくても、顔と声はちゃんと覚えています。
年々、足腰が弱ってきているので、ここ数年は、常に店をいつまで続けられるか分からない状態です。ときどき「もう辞めようかな」と呟いていたら、昔からの常連さんたちが「休み休みでよかけん、店ば開けとって!」と訪ねてくるようになって。もっとおいしいごちそうは他にもあるだろうにね。しかしながら、この歳になってそんな風に言ってもらえることは、すごくありがたいです。
体が動くうちは店を開けたいですが、私自身やりきったので、一代で終わりにしてもいいかなという気持ちがあります。もう歳なので、営業時間を少しずつ短縮しているものの、お客さんため、そして自分のために、一日でも長くお店を続けられたらと思っています。

住所:佐賀市本庄町456-10
電話:0952-23-0934
営業時間:11:00~22:00(21:00 L.O)
休み:不定
駐車場:あり